その6 公開と登録のどちらの公報を見るべきか

特許調査の出来栄えの合格点が70点であるとしたら、70点以上の調査を行っていれば事業活動に影響があるような問題は起こりにくく、問題が発生したとしても致命傷に至ることは少ないと思います。基本プロセスを、手を抜くことなく実施することで達成できる70点の特許調査を、80点に、さらに90点にレベルアップさせるためには、基本プロセスのまわりに枝葉として存在する些細な工夫を一つ一つ積み上げる必要があります。

この講座では、特許調査の精度を高めるための細かなテクニックを、一つずつ取り上げながら、実際の事例を交えて解説していきます。

6.公開と登録のどちらの公報を見るべきか

特許検索により作成された検索母集合をスクリーニングする際に、公開特許公報と登録公報(審査済み公報である公告公報も含める)の両方の公報が存在する特許の場合には、どちらの公報の内容をチェックすべきでしょうか?

一般的には、平成5年法改正によって「新規事項の追加の禁止」が導入されて以降、補正により新たな事項を追加することができなくなりました。公開公報の記載内容に対して、審査を経た公告公報や登録公報の記載内容は、記載内容が削除されることがあっても、新たな事項が追記されることは少ないことから、先行技術調査や無効資料調査でのスクリーニングは、公開公報の方を優先して確認していると思います。

一方で、侵害特許調査(パテントクリアランス調査)の場合には、最終的な特許請求の範囲を確認する必要があるので、登録公報の方を対象にスクリーニングを実施されていると思います。(もしくは、ゴミ落としを目的とする一次スクリーニングは公開公報を対象に実施しても、最終的な特許請求の範囲の確認は登録公報の内容を確認されていると思います。)

ところが、過去に目にした審査案件で、公開公報発行の後に記載内容が追加された公告公報が引用文献として提示されたものがありましたので紹介します。

その審査案件の本発明は、『メチオニンを添加した卵黄を含有する焼き菓子』であり、その構成要件の記載状況を図12にまとめました。

図12 本発明の構成要件の記載状況

引用文献の公開段階の公開公報では、発明の詳細な説明の中で、実施例1~6が記載されていますが、焼き菓子についての記載はありませんでした。しかし、審査の過程で実施例7~10を追加する補正が行われており、実際に引用された審査済み公報の実施例10には、卵黄とメチオニンが配合されたフルーツケーキについて記載されているのです。

「新規事項の追加の禁止」が当たり前の事として運用されている現在の特許制度の感覚では、審査済み登録公報に、公開公報の内容から新たに追加記載されることは無いと考えてしまいそうですが、平成5年以前の特許出願では、発明の内容が大きく逸脱しない範囲での実施例の追加などの新たな記載を追加する補正は普通に行われていました。

したがって、平成5年以前の出願においては、補正の後に発行されている公告公報には公開公報に記載されていない事項が追加記載されている可能性があり、スクリーニング作業を行う際には注意する必要があるということになります。図13には、調査の種類とスクリーニングすべき公報の種類をまとめました。

図13 調査の種類とスクリーニング対象公報

コストが抑えられ納期が重要視される「出願前の先行技術調査」においては、簡易的に公開系公報のみを対象に検索とスクリーニングを実施することが多いと思います。しかし、スクリーニングを実施した際に、関連性がありそうな気配がする公開公報が見つかり、そして、その公開公報が平成5年以前の出願であった場合には、審査済みの公告公報の有無を確認し、公告公報が存在する場合には、その公告公報の内容もチェックしたいところです。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その7 検索戦略とスクリーニング戦略を分けて考える」の説明をします。

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