その7 検索戦略とスクリーニング戦略を分けて考える
特許調査の出来栄えの合格点が70点であるとしたら、70点以上の調査を行っていれば事業活動に影響があるような問題は起こりにくく、問題が発生したとしても致命傷に至ることは少ないと思います。基本プロセスを、手を抜くことなく実施することで達成できる70点の特許調査を、80点に、さらに90点にレベルアップさせるためには、基本プロセスのまわりに枝葉として存在する些細な工夫を一つ一つ積み上げる必要があります。
この講座では、特許調査の精度を高めるための細かなテクニックを、一つずつ取り上げながら、実際の事例を交えて解説していきます。
7.検索戦略とスクリーニング戦略を分けて考える
調査戦略を立案する際に、調査対象となる技術の特徴を表す概念を使って検索を行い、作成した母集合をスクリーニングしていこうとを考えると思いますが、検索戦略とスクリーニング戦略を分けて検討することで、漏れの無い特許調査を実現できると思います。もう少し具体的に言うと、機械検索の段階でどのような記載があるものをヒットさせて、人間が行う目視でのスクリーニングではどういった記載の有無を精査するのかということを想定しながら調査戦略を考えられると良いかと思います。
それでは、走行車両のメーターパネルの自動走行モード表示部の特徴について調査した事例にて具体的に説明します。
下記の図14のメーターパネルを一目見て、「自動走行モード表示部41」は「メーターパネルと別個に設けてある」と読み取れますか?

パッと見た感じでは、「自動走行モード表示部41」はメーターパネルの中に設けられているように見えるのですが、「自動走行モード表示部41」が「メーターパネルと別個に設けてある」先行技術として引用された引用文献の図面になります。
図15を使って、この図面が記載された公報が引用文献として採用された理由を解説します。

図15の中で、「自動運転表示ランプ41(赤色枠で表示)」は「メーターパネル7(緑色枠で表示)」上に設けられており、一見すると「自動走行モード表示部がメーターパネルとは別個」に設けられているとは見えないように思えます。しかし、審査官は、燃料残量が目盛り表示されている青色枠の部分がメーターパネルに相当すると捉え、青色枠のメーターパネルとは別個に赤色枠の自動走行表示ランプが設けられていることから、新規性を否定する引用文献として採用したようです。
図面を見てスクリーニングを実施する際に、上記の図15をパッと見ただけで、「自動走行モード表示部41はメーターパネルとは別個である」と見極めて抽出することができるでしょうか? 私は「自動走行モード表示部41はメーターパネル7とは一体である」として抽出対象ではないと見過ごしてしまうような気がします。
上記の図15に示された引用文献を的確に抽出するためには、『機械検索ではどのような記載がある公報が含まれる検索母集合を作り、スクリーニングではどのような記載がある公報を人間が目で見て抽出するのか』を明確にして特許調査に取り組む必要があると思います。すなわち、検索戦略とスクリーニング戦略を明確にして特許調査を実施すべきということです。
今回の事例では、機械検索では「自動走行モード表示部」について記載されている公報が含まれる検索母集合を機械検索で作成し、人間が実施するスクリーニングでは、「自動走行モード表示部がメーターパネルとは別個に設けられていること」が記載されている先行技術文献を抽出するという調査戦略で臨むということになると思います。
さらに、スクリーニングの進め方について学ぶべきことがあった事案を、図16を見ながら説明します。

図16に示した、別の引用文献においても、表示パネル40の中に表示装置41が設けられており、この図を見ただけでは「自動走行モード表示部がメーターパネルと別個である」とは読み取ることは困難です。
しかし、実際には段落番号【0017】に記載されているように、表示装置41を表示パネル40ではなく、『ボンネットの前端部分に設けても良い』と文章で説明がされていることから「自動走行モード表示部がメーターパネルと別個であること」が記載された先行技術として抽出されています。
このように、図15や図16の様な図面が記載されている引用文献を的確に抽出するためには、鳥の目・魚の目・虫の目で段階的にスクリーニングを実施すると良いように思われます。
鳥の目:全体を俯瞰しながらざっとゴミ落としする
魚の目:時系列に見ることで流れ、トレンドを感じる
虫の目:複眼を駆使して関連する記載を見逃さずに精査する
今回の事例では、スクリーニングを以下の2段階で実施すると良いように思われます。
【ステップ1】鳥の目、魚の目で 1次スクリーニング
『自動走行モードであることを表示するモード表示部』が図面で表示されている公報を1次抽出
【ステップ2】虫の目で 2次スクリーニング
『そのモード表示部がメーターパネルとは別個に設けられていると示唆されている記載の有無』を図面と発明の詳細な説明の文章を詳細に精査して2次抽出する
以上のように、調査戦略を立案する際には、検索戦略とスクリーニング戦略に分けて、検索式の立案の際には、どのような記載がある公報を集めて母集合にするかを考え、スクリーニングにおいては、ゴミ落としから内容の精査へと段階的に進めていく方策を検討すると良いかと思います。
今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その8 数値限定項目の記載チェックは表とグラフも見る」の説明をします。
-以上-

